IDA Session Records

井田 昌之の日々の記録。自己紹介等。

Archive for the ‘教員生活’ Category

漢字コミュニケーション

グローバルITという科目の講義をしていて、中国の経済力の伸びの話をした。いろいろな予測があるが、いずれにしても、人口13億のパワーは基礎的な力があり、2020年にはEUを抜き、米国と肩をならべるという数字もある。日本経済の伸びは微増であり、この結果、日本の経済力は中国・米国の何分の1かにその時にはなるという。相対的な地盤沈下というべきか。予測は予測だが大筋の流れを伝えようとする数字の意味は理解する必要がある。

これで、エクアドルでのあるエピソードを思い出した。2002年の3月だったと思う。当時MITのVisitng Scientistとして人工知能研究所にいた。ボストンの家を後にして、短期の出張をエクアドルに行った。その帰りにキトの空港でアメリカに帰る飛行機を待っている時のことである。飛行機の出発が遅れるというアナウンスがあった。そして、待合室の私のところへ係員が来た。どうしたのだろう?

「あそこに座っている女性のカバンを調べたいのですが、言葉が通じないのです。スペイン語も英語もダメ。協力していただきたい。」と(英語で)話しかけてきた。中国の人だという。私は日本人で中国語はわからないです、と答えると、困った顔。「見てわかるように、あなたしか東洋人は居ない。通訳を呼ぶと時間がかかる。なんとか協力してくれないか。」協力しないとさらに離陸が遅れるということだ。とっさに考えた。どうしたらいいだろう。

「OK、紙とペンをください。やってみましょう。」筆談を試みることを思いついた。係員は航空会社のメモ帳と鉛筆を持ってきた。それで彼女の傍へいった。中年の中国人女性である。家族か夫かわからないが、ともかくもはるばる訪ねてきて帰るところなんだろう。とりあえず、英語、そして日本語で話しかけてみた。緊張しているみたいだ。おそらく係員などの話しかけが何度かあったのだろう。挨拶してみた。応対はしてくれる。それで、紙を見せて、そこに、「鞄」「検査」という3つの漢字を書いた。これが現代の中国で通じる表現なのかわからない。でもそれしか方法が思いつかなかった。彼女はうんうんとうなずいた。通じたらしい。係員が即座に彼女を手招きをした。席を立ちあがって彼女はついていった。それからしばらくして、搭乗開始のアナウンスがあった。帰れた。漢字の威力だろうか。

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Written by masa-ida

6月 15th, 2010 at 7:55 am

あきらめないこと、データを大事にしながら道を開くこと

今日のホットニュースは、私にとってはなんといってもはやぶさの帰還である。新聞でもテレビでも、はやぶさが大気圏に突入するときのきらきらした光、そしてはやぶさが、頼むよといわんばかりに切り離したカプセルの一筋の光。そして自分は燃え尽きた。印象的である。さらに、着地の地点が、ほぼ予想した地域の真ん中だという。なんと正確な予想をしたんだろう。はやければ今日の午後にも回収されるらしい。この一連の流れはそれだけをとっても称賛に値する。

あきらめないことは大事だなぁとあらためて思う。自分たちの信念と情熱と冷静な分析と、もくもくと進む、やりがいのある仕事というのはそういうものだ。それは波乱があるときにはっきりとした形をとる。1か月半電波を捕捉できずに、はやぶさが迷子になった期間があったという。そしてそのころ、はやぶさがどういう状態になっていたのか、地球からはなんともわからない期間がつづいたという。まず電波を捕捉することからはじめた。そしてついに捕まえる。状況を把握する。次の手を必死に考える。その手でいいか分析する、その効果を評価する。そういった大変な難題だが、充実した時間をチームのひとたちはすごしたに違いない。

データを大事にして分析すること、これをわれわれ教員は学生に説くことになる。しかし、しばしばそのことが学生に誤った信号をおくってしまったことになるのに気付くことになる。

そう、過去のデータは過去のものであり、今の、しかも未踏の事態には、そのまま適用できると考えるほうがおかしいのだ。対象も時間を追って変化している、いわば生きている。過去の時点でサンプリングしたデータのとおり今も存在しているという保証はない。むしろ変化していると考えるべきである。その中に確かなものを見つけ出そうとする努力。その原動力は何なのか、信念なのか、推理力なのか、それとも愛情と夢なのか。

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Written by masa-ida

6月 14th, 2010 at 11:16 am

Posted in 教員生活